夜香花
第三章
 やがて日が沈み、西の空が真っ赤に染まり、東から宵闇が迫る頃。
 真砂はゆっくりと目を開けた。

 視線を庭へと投げる。
 影の多い建物の内部は、庭とはいえ全てがぼんやりと滲んだように、はっきりしない。

 しかし、乱破の視力は並みではない。
 庭先に、一人の人影を見つけた。

 真砂は立ち上がり、もう一度屋敷全体を見る。
 夕餉の支度だろうか、厨から薄く煙が上っているだけで、屋敷内は静かなものだ。

 真砂は庭の人影を見つめた。
 夜目の利く真砂には、千代の姿がしっかりと見えている。

 真砂は彼女を確認すると、すぐ下の通りをざっと確かめ、一気に枝を蹴った。
 ざざ、と木から飛び降りると、とん、と通りに降り立つ。
 が、通りにいたのは一瞬。
 次の瞬間には、通りを蹴って、真砂は築地塀の上に立っていた。

 初めに木から飛び降りたときに葉を散らした音だけで、後は全く音無く、真砂は築地塀の上から庭に降りた。
 木から直接塀へ飛び降りることも出来るが、そうすると、塀の瓦が音を立てるのだ。

 首尾通り庭に入った真砂の元に、すぐさま千代が駆け寄ってくる。
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