くろこげのホットケーキ
14. 「おおさわ~ぁ!」 湖山さん・・・? 眩し・・・
14.

「お お さ わ ~ ぁ !!」

湖山さん・・・?
眩しい光の中へ一歩踏み出して、新しい自分に生まれ変わる、この瞬間に立ち会ってくれた人たちの笑顔と拍手と激励の言葉の渦の中に、湖山さんの声が聞こえた。

「オ メ デ ト ~ ォ!!」


何もかも忘れてしまう。何度も迷って何度も言い聞かせて、やっと覚悟したほんの一瞬前。

声のした方を捜す。湖山さん、どこにいるんだ。ブーケトスに一際大きくどよめいた歓声ととぐろを巻くような人々の中に、湖山さんの姿を捜す。

いた!!
見つけた!!
湖山さん・・・・!!!

菅生さんと並んで歩いている後姿の湖山さんを見つける。ほんの一瞬躊躇ったとき、花嫁を囲む渦潮が俺を押し出すようにして、まるでそれが俺の背中を少し押したように俺は湖山さんを追いかけた。

(おねがい、どいて、行かせて、行かせてくれ・・・!)

「湖山さん!!」
「湖山さん!!!!」

何度も呼ぶ。叫ぶ。

チャペルの前の小道が尽きるその時、湖山さんがスローモーションのように振り向いた。
ざわめきを背にして、そこに、たった二人しかいないような気がした。

湖山さんがもう一度菅生さんを振り向いて、菅生さんが優しく微笑んだ。湖山さんにほんの少し手を上げ、そして俺を見てもう一度にっこり笑うと、小道の先へ歩いて行った。

俺の頭の中に、真っ黒に焦げたホットケーキが浮かんだ。色んなことがあった。積み重ねてきた友情と信頼の月日。自分を偽りながらでも、彼と共にした一瞬、一瞬。胸を焦がしながら、食えない想いを秘めて、積み重ねてきた何年も。

ホットケーキ、いつかまた、食べてくれるだろうか?
心を込めて作るから、湖山さんの為に、湖山さんの為だけに作るから。

赤い橋を渡ってこの道にたどり着いた。秋の風が吹く。風に押されたように湖山さんと俺と同時に一歩づつ踏み出して向かい合った。湖山さんのスーツの肩に白い花びらが一枚乗っている。花びらを摘み、湖山さんが差し出した掌に乗せると、また風が吹いて花びらを運んで行った。

目で追ったその先に、白い小さな花びらが遠く遠く飛んで見えなくなった。

湖山さん、あなたに言いたいことがある。
ひとつだけ、どうしても、偽れないことがあったって気付いたんだ。


「湖山さん・・・あのね、俺・・・・」


終わり
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