ハッピーエンド
亜衣の場合
あの日あの瞬間、亜衣はマンションで一人立ち尽くしていた。

実家のある串本町から大学まで電車で1時間、通えない距離ではなかったが自立したくて、そして大人になりたくて市内に小さなワンルームを借りたのだ。

県立高校の校長をしている厳格な父と町議会議員の娘である母に厳しく育てられた亜衣は高校を卒業するまで修学旅行を除いて外泊というのをした事が無い。

門限は8時、経済的には裕福なはずなのに渡される小遣いは僅かでアルバイトも禁止されていた亜衣には親しい友人が殆どいなかった。

今、仲埜と東という見知らぬ男二人を前にしただけで総毛立つ程の恐怖感を覚えるのには、亜衣のそういった外界と遮断されていた過去に加えて、両親による激しい体罰を受けつづけた心の傷がある。

父の洋平、母の小枝子ともに多忙で幼児期から亜衣は両親と遊んだ記憶が殆ど無い。
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