黄色い線の内側までお下がりください
【ハチ】

【ハチ】  さがしもの



 赤い水で髪を洗う。

 シャワーから流れる水は赤黒い塊の混じった水だ。

 降ってきたどろりとした黒い塊が肩や腕や胸元ではねる。

 手に落ちてきた赤黒い塊を潰して、顔を覆うように全体的に塗り、オレンジ色の脂で全身をべっとりと覆う。

 べたべたの脂まみれになった体は、獣の臭いがするが嫌じゃない。



 これで何日目だろうか。

 桜は毎晩のように同じ夢を見て、同じところで目を覚ます。



「まじ、ほんとに勘弁してよ」

 汗でぐっしょりと濡れている首元に気持ち悪く髪の毛が絡み、手で拭うように後ろにまとめる。

 激しく跳ね回る心臓を抑え、枕元に用意してある水を飲み、エアコンを入れて無音の室内に機械音を入れた。

 ほんの数秒で涼しい風が桜の体を駆け抜ける。

 汗をかいた体にエアコンの風が当たり、冷たくなる。

 そのまま横になってみたが、もう、寝られるような気持ちではなかった。
                                                                                                                                            
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