本音は君が寝てから


『まだ駅前にいます』

そういう彼女と電話をつないだまま、俺は駅前まで走った。

中々見つけられずにキョロキョロと辺りを見回すと、耳元からは『もう見えてますよ』と返事が来る。


「下です」

生の声にフッと下を見ると、彼女が階段のところに座り込んでいた。


「おい、汚いぞ?」

「ちょっと気持ち悪くて」


携帯をポケットに戻し、彼女の手を引っ張って立たせる。
すると彼女はぐにゃりと体をよろめせまた座り込んでしまった。


「ちょ、森宮さん?」

「ごめんなさい。走ったから酔いが回って、ちょっと立てない」

「でも地べたに座ったら汚れるだろ」


もう一度引っ張りあげ、今度は胸を貸す。

彼女はぽうっとした目で俺を見つめると、甘えるように身を寄せてきた。


柔らかい感触に加えて、お酒の匂いと彼女独特の甘い香り。
嗅いでいるだけで顔が熱くなってきて、テンパってきた。

ここはどうするべきだ。
抱きしめてしまっていいのか。

でも俺はまだちゃんと彼女に気持ちを伝えていないわけで、その前に衝動的に手を出すのは大人としてどうなんだ。

酔った頭で埒もなくぐるぐる考えていると、森宮さんの方が俯いたままぼそぼそと話し始めた。

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