幻影都市の亡霊
第六章 切なる和解とすれ違い
 追手がないのを確認して、駆ける脚を緩めた。シクラはぽいっとウェインを投げ下ろした。

「うぐっ」

 ウェインは、少し世を儚んだ。土埃を払いながら立ち上がる。シクラは不思議そうにそれを見て、

「どうして、上手く、着地しない?」
「……無理、絶対無理……」

 ウェインは未だに不思議そうにしているシクラを置いて、駆け出した。自分の足で。知ってる町だ。走って自分の家へ急いだ。他の者達も後に続く。

「待ちなさいッ」

 ツキミが追ってきた。しかしそこはすでにウェインの家の前だった。

「待てぇッ」
「っ」

 ざっと、ウェインの前にツキミが立ちはだかった。その様子に驚く一同。そこにヴィアラも合流した。彼女も息を飲んで、

「あたしの気泡を通ったのっ!? 馬鹿じゃないのっ?」
「うるさいっ」

 どろっと溶け、異臭を放つ髪、顔も身体もあちこち小さなあぶくを立てている。ヨミが目を見張り、

「お前……っ!」

 ツキミが顔を歪めて鼻で笑う。

「はっ……こんな身体ね、どうなったって良いのよ。この小僧を殺せれば」
「ぐっ」

 ぎゅじゅっ、とツキミは嫌な音を立てて、ウェインの首をしめた。じたばた身体をうねらせるが、異常な力だ。

「やめろっ」

 ヨミがツキミを掴んだ。じゅぶっと嫌な音がする。ウェインは逃れた。

「げほっ……」
「っ……」

 ヨミは慌ててツキミを放した。そして――、

「何をするっ!」

 ツキミが咆哮を上げた。その肌がみるみる治ってゆき、髪もさらさらと白く流れた。

「癒してやってるんじゃないか」

 家の中から、声がした。ウェインの初めて見る人だった。銀の長髪の、紫の房を持つ亡霊。後ろから、寄り添うように自分の母がやってきたのを見たときには、すぐにその人が誰か悟ったのだ。さらに、後ろからアクエムと、自分より年下の女の子と、年上の青年が出てきた。
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