砂漠の舟 ―狂王の花嫁―(第二部)
第2章 愚かな王子

(1)正妃の座

砂漠の宮殿には謁見用の広間があった。

そこには天蓋付きの玉座があり、見るからに豪奢な金銀の細工が施されている。いくつもの宝石がちりばめられ、正面に大きく輝いているのは磨かれた緑柱石だ。

玉座の斜め後方、一段低い高さに正妃の座も置かれていた。

これまでは広間の片隅に除けられていたらしい。だがこの度、サクル王がリーンを正妃に迎えたことで、正妃の座も磨かれ、彩りを新たにして玉座の寄り添う場所に復活した。

サクルは玉座の中央に胡坐を掻いて座っている。

一方、リーンは初めて座るため、真ん中にちょこんと正座した。

今日のリーンの衣装は実に華やかだ。朱色の衣装を纏い、アバヤの代わりに、純白のレースに全身を包んでいる。袖から覗く複数のブレスレット(スィワール)、襟元からちらりと見えるネックスレス(イクド)。すべてが最高級の品でサクルの贈り物だ。

年頃の少女らしく、リーンも綺麗な品物をもらったり、それで着飾ったりすることは楽しい。だが、これまで目にしたこともない豪華な品に、腰が引け気味なのも確かだった。


リーンの腰が引ける理由はそれだけではない。

彼女が正面を向くと、そこにバスィールの王女レイラーがいた。

黒いアバヤを着せられ、床に直接座らされている。視線が合うと、レイラーは凄い目でリーンを睨む。

本来ならすべて自分のもののはずだったのに。と彼女は怒るが、それを放り出したのはレイラー自身なのだ。リーンが恨まれる筋合いではない。

とはいえ、それを本人には言えないリーンだった。


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