鈴姫
秋蛍と笙鈴




 黒く醜い魔物に短刀を突き刺し、己が持つすべての力を注ぎこむ。


目を開けていられないほど眩い光の中、香蘭の叫ぶ声が聞こえた気がした。


けれどもう彼女のもとへはいけない。


ここで間もなく消滅するのだから。

彼らが生み出した魔物とともに。


もう終わりかというとき、白く細い手が秋蛍を引き上げた。


光の中から引き上げられ、淡い空色の世界へと連れ出された。


魔物の姿はどこにもない。


もちろん香蘭の姿も、ハルの姿もなく、秋蛍はただ空色の世界に浮かぶようにして存在していた。


「あれは、もう消滅しました。お疲れ様です、秋蛍」


目の前で微笑むのは、笙鈴だった。

秋蛍をここへ連れ込んだのはきっと彼女だ。


「笙鈴……」


彼女の名前を口に出す。



五百年振りの再開。


当たり前だが、彼女の姿はあの頃と全く変わらない。

笙鈴は答えるように笑って、秋蛍の手をとった。


「久しぶりですね。またこうして相見えるなんて夢のよう……」


本当に懐かしそうに、笙鈴は秋蛍の頬に手を滑らせる。


その手をとり、秋蛍は首を振った。

「あってはならないことだった。こんな形で再会するなんて」


「相変わらず手厳しいのですね」


笙鈴は眉を下げ、頭を垂れた。


長く美しい髪が、風もないのにさらりと揺れる。




< 274 / 277 >

この作品をシェア

pagetop