もう一度抱いて
近づく距離
その日の夜のことだった。


夕食もお風呂も済ませて部屋でゴロゴロしていたら、スマホにメールが入った。


なんと相手は磯村君からだった。


『早速作詞に取り掛かってもらいたい。曲のデータ、パソコンのアドレスに送ったから』


「うー、ついに来たよー」


なんでもこのバンドは、ボーカルが作詞をしなくちゃいけないらしい。


出来ないって断ったのに、『文学部なら出来るだろう?』ってあっさり却下されてしまった。


仕方なく、パソコンメールに添付されたデータをマウスでカチッと再生した。


「お?」


これは…。


アップテンポでかなりカッコイイ。


結構好きな感じかも?


だけど歌詞なんて生まれてこの方書いたことないし、どうすればいいの?


とりあえずメロディラインの音符の数を数えてみる。


この数に合わせて文字を埋めていくしかないよねぇ…。




最初は憂鬱だった私だったけど、いざ書き始めるとなんだかムキになっていた。


文学部だろう?って言われたあの言葉に、ふつふつと闘争心が湧いていたのかも確かだった。


小一時間ほどかけて、まるで虫食い問題を埋めるかのように完成させた歌詞をすぐに磯村君に送信した。


やれやれ、やっと終わった。


ホッとしてベッドに横になったその数秒後、スマホにメールが入った。


わかっていたけど、相手は磯村君だった。


『話がある。明日、昼に大食堂で会おう』


な、何これ?


話って何よ。


う~。


イヤな予感がする…。
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