君が好きだから嘘をつく
複雑な夜
健吾が取引先から会社に戻ると、20時を過ぎていた。
疲れからため息が出る。
そしてエレベーターから降りて廊下を歩き、営業部のフロアに向かう。

「腹減った~。楓もう帰ったかな~?」

今日は週明けに予定されている接待の打ち合わせも兼ねて飲みに行きたかったけど、連絡もしていなかったから楓はもう帰ったかもしれない。
とりあえず姿を探そうとフロアを見渡すと後ろから声をかけられた。

「よう!健吾」

振り返って相手を見ると、総務課の染谷だった。

「あぁ、染谷お疲れ。何、お前も残業?」

「うん。急ぎの書類作成があってさ」

「そっか。で、それもう終わる?これから飯行かない?」

さっきフロアを見た時、楓の姿がなかったのでとりあえず染谷を誘った。

「悪い、まだ終わりそうにないんだ。それよりさ健吾!聞きたいことがあるんだよ」

突然詰め寄って声を潜めたので、一瞬身が引いた。

「あのさ・・・おまえのとこに近藤って奴いるだろ」

「ん?あぁ、近藤ね。何?何かあった?」

部署違いの染谷から後輩の名前が出て、何かあったのか気になった。
染谷はさっき詰め寄って聞いてきたくせに、何か言い難いのか口ごもる。

「う・・ん、あのさぁ」

「何だよ、言えよ」

後輩の名前が出ているのだから聞かないわけにいかない。
いったい何が聞きたいのだろうか?とりあえず染谷の話し出すのを待った。

< 14 / 216 >

この作品をシェア

pagetop