例えばここに君がいて
4.この気持ちの名前はなんだ。

 サユちゃんたちと別れて、階段をおりていく間に夏目に腕を掴まれる。

やめろよ。傍目にはいちゃついてる男同士のカップルだぞ。
俺はノーマルだ。女の子が好きなんだ。
仮に男がよくても夏目は嫌だ。


「さあ、行こうぜ中津川。カラオケだってよ、カラオケ」

「俺、陸上部に見学に行くって言ってんだろ」

「逃げる口実だったんじゃねーの?」

「それもあるけど、本気で入部する気はあるから。そもそもお前だってカラオケ行きたいわけじゃないんだろ?
逃げちゃえばいいじゃん」

「いや、あの明菜って女の眼力が怖すぎて。敵に回したくねぇ」


下敷きをぶつけられた鼻はまだ赤いようだしな。相当痛かったのか。
不憫だから、優しい言葉をかけてやろう。


「じゃあ、先に行ってろよ。俺はちょっと顧問の話聞いてから帰る」

「なんだよ、真面目っ子め。嫌われるぞ」

「お前、いきなり喧嘩売るのやめろ」


ムカつく男だー。
優しくなんかするんじゃなかったぜ。


「じゃあケータイ。持ってんだろ?」

「え? ああ」


廊下の片隅でアドレス交換。
高校に入ってスマホに替えてもらって初めてのアドレス交換が、よりによってこいつとなのかー!


「待ってるからな。ちゃんと来いよ! 来なかったら泣くぞ」

「はいはい」


お前は俺の彼女かよ。
セリフだけ聞いてると気持ち悪くて背筋がゾクゾクするぜ。

嵐のような男が退散して、自然と安堵の溜息が漏れ出る。

疲れた。
まだ始まったばかりだというのに、なんでこんなに疲れるんだろう、高校生活。


< 22 / 237 >

この作品をシェア

pagetop