君が好きだから嘘をつく
昼のひととき
「さぁ~楓、楽しいランチに行こうか。たっぷり聞かせてもらうよ~」

咲季先輩が何を聞きたいのか分かっている。一昨日の健吾との事だ。
いつもなら外回りでなかなか一緒にランチなどできないけど、今日は午前中が会議だったので咲季先輩の望む通りランチを一緒にとれるのだ。
先輩ったらまた楽しんでるな。その証拠に、会議室から持ち帰る山のような資料を抱えているっていうのに涼しい顔してニヤニヤしてる。

「わかってます。でもそんなに話すようなこと何もないですよ」

「いいの、いいの。土曜日電話した時から楽しみにしていたんだからさ、まぁ付き合いなさいよ楓ちゃん」

ほら、やっぱり楽しんでる。
でも土曜日お誘いの電話くれたのに、事実上断っちゃたしね。「楽しんで来るんだよ」とも言ってくれてたし。
休日に健吾と海に行ける私の喜びを分かっているからこそ、聞いてくれるんだよね。

「どこのお店がいいですか?」

「う~ん、私決めていい?」

「いいですよ、おまかせします」

「そ~ね、じゃあ・・・」

咲季先輩が言いかけたところで健吾に呼ばれた。

「楓、飯食いに行こうぜ」

振り向くと、会議室から健吾と澤田くんがこっちに向かって歩いてくる。
そう、いつも午前会議の後は同期の3人で食べに行くことが多かった。
今日もそのつもりで誘ってくれたのだろう。澤田くんもこっちを見ている。

「今日はダメ!私と女子会なんだから」

誘われた私じゃなくて、咲季先輩が有無を言わさず断る。まあ、確かにね、健吾がいたら話せるものも話せないしね。
しかし健吾ったら、目が点になってるよ。

「は?2人で女子会?意味わからないですよ。じゃあ、一緒に4人で行きませんか」

「だーめ。今日は楓と2人って決めているの。今度奢ってあげるからさ、澤田くんもごめんね」

やっぱりハッキリと断っている。今日の咲季先輩は譲らないよ何があっても。
だから健吾、澤田くんごめん。

「はぁ・・分かりました、じゃあまた今度。隼人行くか」

2人で女子会と言われ、なんだかポカンとしていた健吾はそんな光景を苦笑している澤田くんと共にデスクに荷物を置いて、先にランチに出て行った。
まあ理由が分からないからポカンとした顔になるよね。
この埋め合わせは私も後でするよ。

私達も抱えていた資料をデスクに戻し外へ出る支度をした。


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