三十路で初恋、仕切り直します。
3 --- 酒の席でのプロポーズは本気にするなかれ

「だからさー、もうすっかりむこうでの生活が馴染んじゃったから、あんまこっち帰ってくるつもりなんてなかったんだけどねぇ」


他に誰もいない座敷席で、泰菜は法資と向かい合わせに座っていた。


卓の上の料理は二人で取り合いながらあっというまに食べてしまった。法資はなぜか決して酒を飲もうとはせず、泰菜だけで瓶ビールと冷酒二本、それに追加で法資が用意してくれた濃い目のハイボールまで飲んでしまっていた。


さすがに少し酔っているようだ。なんだか妙にたのしくていつもよりだいぶ饒舌になっている気がする。



「お前たかが高校ンときのダチに会うためだけに、新幹線に乗ってまでわざわざ静岡から帰って来たのかよ?」
「だって美玲に会いたかったし、明日の裕美ちゃんのお祝い会にも行きたかったんだもん」
「それで張り切って金曜の会社帰りにやって来るのかよ。ご苦労なこった」

「他の子はともかく、美玲なんてちいさな坊やが二人もいてなかなか出歩けないからね。会いたかったらわたしが会いに来るしかないじゃない」
「暇人だな」

「フットワークが軽いのだけが独身のいいとこだし、地元なんて近いもんよ。弥生ちゃんが結婚したときはひとりで台湾まで会いに行ってきたよ。ほら背の高い、バスケ部だった本田弥生ちゃん。あの子国際結婚したのよ」
「で会いに海外まで?……お前って、意外と行動力あるんだな」


本心から感心したように言われて、すこしだけ気分がよくなり、もう一杯グラスを飲み干した。


「ほとんど日本語か英語で通じるし、楽しかったよ?明日はさ、『蓮花亭』で裕美ちゃんの『結婚報告会』やるんだ。お祝いに買ったアロマデュフューザー、気に入ってもらえるといいけど」
「……その『結婚報告会』ってなんだよ」



『結婚報告会』



高校のとき同じグループで仲良くしていたともだちの結婚が決まるたび、結婚式の前に一度仲間うちで集まって、結婚する友達にお祝いの品を送ったり、旦那さまとの馴れ初めや惚気話を聞き出したり、指輪を見せてもらったりしてお祝いをする集まりだった。


今回の裕美でグループ4人目。これで半分は既婚者になったわけだ。





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