やくたたずの恋
5.ヒヨコ、はたらく。(前編)
 いつもの出勤風景。いつもの空気。いつもの11階のフロア……のはずだった。
 視線の先に、『Office Camellia』のドアに寄りかかる、胸の平らな女の姿を見るまでは。
「……何で今日もまた、お嬢ちゃんが来てんだよ……」
 目の前の事実を消し去りたい。恭平はその一心で、一緒に『Office Camellia』へと出勤してきた悦子の背後に隠れる。
 だが、マンションのドアの前で待っていた雛子は、それを許す訳にはいかなかった。昨日、失敗した恭平への説得を再び試みようと、この日も朝からここにやって来ていたのだ。
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