やくたたずの恋
6.ヒヨコ、はたらく。(中編)
『Office Camellia』の事務所となっているマンションの一室は、3LDKの大きなものだった。
 恭平が言った「奥の部屋」は十畳ほどの広さがあり、白い壁と大きな窓が室内を明るく光らせている。窓際に大きなデスク、部屋の中央にはソファセット。設えられた大きな備品はそれだけだ。
 一般家庭ならば、おそらくリビングとして使用される部屋だろう。だが今のこの部屋には、家族団欒の雰囲気などは微塵もない。
 デスクの横に置かれた、背の高い観葉植物だけが唯一の自然物で、あとは無機質の塊が集まる事務室となっている。
 雛子は案内されるまま、ソファに恭平と向かい合って座った。そして悦子が差し出した契約の書類に、サインをしていく。
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