ヴァニタス
変わり者の男の出会い
目の前に広がるのは、青い海。

ここへ落ちたら、私は泡となって消えて行くのだろうか?

子供の頃に読んだ童話の結末を思い出した後、そんなことないなと思って私は小さく笑った。

海へ落ちて泡となって消えて行くことができたら、誰だって苦労しない。

潮を含んだ海からの風が、肩甲骨の辺りまで伸ばした黒髪を揺らした。

断崖絶壁のこの場所に、私は立っている。

そこから見下ろすと、呼吸をするのも苦しいくらい高かった。

ここから飛び降りたら死ぬことは確実だ。

さすが、“自殺の名所”だと呼ばれている場所だけのことはあるなと思った。
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