偽装結婚の行方
第四章 引っ越し
「もしかしておまえ、あの子に惚れたか?」

「……えっ? ば、バカ言えよ。そんなわけねえだろ?」

「そうか? 別にいいと思うけどなあ。惚れるぐらいは……」


いや、ダメなんだよ。尚美には好きな男がいて、しかもそいつとの子どもまで産んでるんだから……


「いいから早く言えよ。“それから”の続きを」

「お、おお。河内尚美は、見た目が可愛いだけじゃなく性格もいい」

「うん、そんな感じだな?」


それは俺も思った。受け答えなんかの印象だけど。


「しかも真面目で、仕事はきちんとやってた、と思う」

「なるほど。それから?」

「ん? 以上だけど?」

「それだけかよ? もう少し何かないのかよ?」

「ん……ない。だから言ったろ? 特に親しかったわけじゃないって……」

「ちぇっ。使えねえなあ」


俺はがっかりして、中断していた飯を食い始めた。阿部からもう少し尚美の情報が得られると思ったのだが、とんだ期待倒れだった。


「ところでよ。彼女、元気だったか?」

「それはまあ、たぶん」

「そうか。おまえ聞いたかなあ、彼女はなんで会社を辞めたのかを」

「え?」

「それが謎なんだよなあ。俺だけじゃなくてさ、総務のみんなも首を捻ったんだ。何の前触れもなく、いきなり辞表を出したらしくてさ……。聞いたのなら教えてくれよ」


き、来た……!

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