恋人を振り向かせる方法
敦哉と奈子の切ない過去


前回は、豪華客船での船上パーティーへ連れて行かれ、今回は高弘さんに会いに高級ホテルへ連れて行かれるのだから、日頃の生活とのギャップが激しい。
こんな事がなければ、敦哉さんが御曹司だという事実を忘れているくらいなのに。
それにしても、高弘さん一家とはどこで会うのかと思っていたら、小さなレストランを貸し切っていて、そこで会うらしい。
もちろん、このホテルも新島グループの経営するホテルだから、レストランの貸切など朝飯前という事なのだ。
そして最上階より3階下のフロアにあるレストランへ、とうとう着いてしまった。
また、前回の様な修羅場があるのかと思うと緊張が走る。
ここは、ウエディングレストランになっていて、ヨーロピアンな雰囲気の感じの良い店だった。
こんな時でなければ、満喫したいところだけれど、そうはいかない。
まるで落ち着かない気持ちで進むと、50人は収容出来るレストランにいるのは、高弘さんの家族と思われる4人と、敦哉さんの両親だけだと分かる。
こんな広いレストランを、こんな少人数で貸し切るなんて、いくら経営者がいるからと言っても、セレブの考え方は理解出来ない。

「何だよ、結局オヤジたちも来てたのか?」

ウンザリとでも言いたそうに、敦哉さんはこれ見よがしにため息をつく。
すると、負けるわけがないお父さんが、眉間に深いシワを寄せ、応戦したのだった。

「当たり前だろ?誰の為に、こんなややこしい問題になってると思ってるんだ?」

相変わらず威圧感たっぷりのオーラを放っている。
後ずさりをしそうになり、かろうじて敦哉さんの手で救われた。
いつの間にか、私の手を握ってくれている。

「誰の為って、会社の為だろ?ややこしくしてるのは、オヤジたちじゃないか」

「敦哉!口を慎みなさいと言ったでしょ
!」

お母さんも体裁関係なく、感情を剥き出しだ。
どうやらこの跡継ぎ問題に、相当ヤキモキしているらしい。
そんな中、一人の男性が声をかけてきた。

「敦哉、いつまで意地を張ってるんだよ。そのせいで、お前の大事な姫が窮地に立たされているんだけどな」

同じくらいの歳の男性だ。
恐らく、この人が高弘さんなのだろう。
思わず見入ってしまったのは、海流にどことなく似ているからだ。
きっと他人の空似なのだろうけれど、本当によく似ている。
海流は顔立ちのさっぱりした人で、敦哉さんとは正反対の雰囲気だ。
スラッとした長身な部分も、この高弘さんと似ている。
敦哉さんのルックスは、好みが分かれそうはところだけど、海流のルックスは間違いなく万人受けするものだった。
その海流に、この人はよく似ている。

「何だよ高弘、姫って。それに奈子が何って?」

けだるそうに敦哉さんは答えたけれど、高弘さんは怯む事はない。
むしろ、挑発的な言い方をしたのだった。

「敦哉が奈子と結婚しないなら、俺が頂こうと思うんだ。もちろん、新島グループの総帥の座もな。敦哉、それでいいか?」
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