Under The Darkness
別離
終章
「……これは一体どういうことかな?」
翌朝、退院の時間どおり病院を訪れた、お父さんの怒りの第一声である。
「……京介君、寝相悪かったみたいでな、ベッドから落ちて、傷が開いてもうてんて。意外と子供やね。あははっ」
昨夜の情熱的な行為せいで、京介君の傷がパックリと開いてしまい、朝一番から医師やら看護師やらがバタバタと出入りを繰り返し、病室は騒然としてしまっていた。
それを見たお父さんが、胡乱な目を京介君に向けていて。
京介君、なぜか勝ち誇ったような顔をして微笑んでいたんだけれど。
私はずっと居たたまれない心境だった。
医師達に吐いた同じ嘘を、今度はお父さんにも言ったんだけど、お父さん、京介君をじっとり睨んだまま動かない。
「……美里さん、私、寝相は」
私の子供じみた言い訳に、京介君はムッと反論しようとする。
私は慌てて荷物を掴むと、そそくさと踵《きびす》を返した。
「ほんなら、私、先に退院するし! 入院生活、満喫してきたらええからなっ。ここの看護師さん美人多いし、京介君、よかったな!」
「……貴女って人は……」
京介君のこめかみに、青筋がピキッと浮かぶ。
危険を察知した私は、バイバーイと手を振り、そのまま病室を飛び出した。
扉の外からちらっと視線をやると、京介君はどこか恨めしそうな表情で、じっと私を見据えていて。
「……帰ったら覚えてなさい」
性悪に笑みながらのその台詞は、耳を塞いで聞かなかったことにする私だった。