赤い流れ星
side 和彦




「和彦さん、ちょっと話があるんです。」

「なんだ?」

シュウはそう言うと、ふすまを少し開けて隣の部屋の様子をうかがった。



「……美幸には聞かれたくない話なのか?」

「ええ…まぁ…」

シュウの言いたいことは、言われる前からなんとなく察しがついた。
ここ数日のシュウはずっとふさぎ込んでいた。
やはり、今の状況に納得していないのだろう。



「和彦さん…俺、やっぱり、ひかりとご両親を引き裂くようなことは出来ません。」

「……そんな話じゃないかと思ったよ。
でも、ここまで来て……」

「和彦さん…お願いです。
何も言わず、ひかりを連れて帰って下さい。」

「おい、馬鹿なことを言うなよ。
そんなこと…出来るわけないだろ?」

「じゃあ…和彦さんが俺の立場だったらどうですか?
好きな女を自分のせいで不幸にしてしまうことに、心は痛みませんか!?」

「それは……」

確かに、シュウの気持ちはわかる。
俺がシュウの立場だったら……やっぱり身を引くと思う。
俺はシュウのことが好きだし、美幸のことを考えれば、二人には幸せになってほしいと思うけど、本当にそうなれるかどうかについては正直言って自信はなかった。
先のことを考えるなと二人に言ったのも、実は俺自身が考えられなかったからなのかもしれない。
一応、こっちに戻って来る時に、雑誌社と契約する話はほぼまとまっていたが、今は出版業も冬の時代だ。
潰れる雑誌社も後を断たない。
クビになることだってないとは言えない。
二人の面倒をみていく覚悟は出来てはいたが、もしも、俺が病気になったり事故にでもあったら……
二人の身に何事かがあり、大金が必要になったら……
そんなことを考え出したら、不安は際限なくわきあがってくる。
だからといって、シュウを見捨てることは出来ない。
どんなことがあろうとも俺はシュウを守りたい気持ちには変わりはない。
それは、美幸が彼を呼び出したという責任感だけではなく、シュウという男に素直に好感を抱いているからだ。
だが、そういう想いがシュウの心の負担になっていることもよくわかる。



「それはわかる…
だけど、美幸はおまえのことが好きなんだぞ。
どんな困難があったっておまえと一緒にいるって決めて出て来たんだぞ。」

「和彦さん……
俺だって、ひかりと別れるのは辛い。
……でも、俺は……やっぱり……」

シュウは悔しそうに唇を噛み締めた。
俺にはシュウの気持ちが痛い程わかり、返す言葉がみつからなかった。
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