狂妄のアイリス
第二章「きおく」

少女

 町内の十二時を知らせるサイレンで目を覚ました。

 ゆっくりと起き上がると私はいつものタートルネックの服を着ていて、リビングのソファーで寝ていた。

 寝ぼけ眼を擦っても、自分がどうしてここにいるのかわからない。

 昨日はおじさんとミネストローネを作ったはずだけど、それはどんな味だったろう。

 おじさんに抱きしめられたところまでは覚えているのに、その後の記憶がない。

 またか、と思う。


「おじさん……?」


 いつもならもうとっくに仕事へいっている時間。

 それでも、おじさんを見送った記憶のない私はおじさんを探す。

 リビングを見回してキッチンも覗いて、トイレの扉も開けて見る。

 家中をうろついておじさんを探すけど、やっぱりいなかった。
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