黒愛−kuroai−
アカイ イト
 


 ◇◇◇


4月、高校に入学してから数週間が経つ。


授業終了の鐘と同時に教室を飛び出し、テニスコートに走った。


目的は一つ。
愛しの彼を見るためだ。



友人の“菜緒”が息を切らせて隣に立つ。



「愛美(マナミ)ー、速過ぎ。
そんなに急がなくても、まだ誰も来てないじゃん」




確かにまだテニスコートには誰もいない。

今日も私が一番乗りだ。



それくらいの気構えがないと、
良い場所は確保出来ない。


うかうかしていたら、
フェンスの周囲はすぐに女子生徒で埋まってしまう。



まだ呼吸が落ち着いていない菜緒に言う。



「付き合ってくれなくてもいいんだよ?
柊也(シュウヤ)先輩を堪能するのは、私だけでいい」



「えー友達でしょー?
仲良くしよーよ。私だって柊也先輩見たいしー」



「菜緒!」



「あ…何その怖い顔…

私の場合はただの目の保養。
愛美みたいに、身の程知らずな夢は抱かないよ」




身の程知らずな夢?
それは違う。




< 2 / 276 >

この作品をシェア

pagetop