極上な恋をセンパイと。
記憶は過去を辿る


部長からその話を聞いたのは、慰安旅行から帰ってすぐの事だ。



「カナマル商事……ですか?」




渡された資料に目を通しながらそう言うと「そうだ」と部長が頷いた。



「今夜、その営業のヤツと飯行く事になったから佐伯も同席してくれ」

「わかりました」


……。

カナマル商事とは、5つの指に入るトップ企業だ。
そこの社員と食事をするという事は、つまり接待という事。

それを、あたしなんかが行ってもいいんだろうか。
大事な接待に連れて行くなら、頭が切れる久遠センパイとか、口が上手い柘植さんとか……すぐに打ち解けられる真山くんの方がよっぽど適している。



「それで、あのあたしは何をしたらいいんでしょうか?」



そう言ったあたしに、部長は豪快に笑うとポンポンと肩を弾いた。



「なーにビビってんだ! 佐伯がいるだけで華やかになるだろ。それに、酒の席には美人って相場が決まってんだよ」

「……」


あはは、美人って……。
そんな相場、いつ決まったの?
それならお酒のプロの美人のお姉さんたちがいる場所、あるでしょーが。


真っ白な歯を見せて、自慢げに言った部長に思わず呆れてしまった。


「いいか?笑ってりゃいいんだ。笑ってりゃ!」

「は、はあ」



まあでも。部長にこうして仕事の件で頼まれるなんて初めてだから、ちょっとだけ嬉しいかも。


あたしなりに、失敗しないように頑張らなくちゃ。


「それで、その方の名前はなんていうんですか?」


間違えちゃいけない。しっかり覚えておこう。
手帳と取り出して、ペンをギュッと握りしめた。



「宇野だ。宇野浩介」


うの……こうすけ?


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