そのうち削除
◆背中◆


驚きすぎて、声も出せない。


『だからね、茅那に決まったのよ』


ケータイの向こうから聞こえてくる電話の声はとても嘘を言っているようには思えないので、これが現実だと実感する。

それでも信じられないという気持ちが強くて、ポカンと間抜けに口を開けてしまっていた。

春が過ぎて、初夏と呼ばれる季節。
駅にも繁華街にも比較的近い位置にある私の住むマンション。
今は気候的にも過ごしやすくて、日中はポカポカと太陽が室内を照らしてくれている。
マンションの10階、エレベーターから最奥の角部屋が私の自宅だ。
今日は1日オフで、時間に縛られることなく起きて。
忙しくて滅多に出来ない家事を済ませて……久々にのんびりとした休日を満喫していた。


何も考えず、ぼけーっとしていたら、突然かかって来たマネージャーからの電話。

まさか急に仕事?
なんて考えて、電話に出ないでおこうかとも思ったけど、緊急だったら悪いかと考え直して通話ボタンをタップした。

そして、今の話。
全く予想できなかった。


『じゃあ、来週あたりから本格的に話を進めるらしいから。そのつもりでいて』
「あ、はい」


その言葉を最後にマネージャーは通話を切った。
ケータイをホーム画面に戻し、近くにあったローテーブルの上に置く。



そこでふと、リビングと対面式になっているキッチンの方へ顔を向けた。



< 2 / 11 >

この作品をシェア

pagetop