魔法がとけるまで
お持ち帰り
翌日、病院に座間さんを迎えに行った。入院費の清算は、私がやった。



「あの…お金…」



座間さんがオドオドと私に質問する。



「あなたはヒモなんですから…いいんですよ」



「あの…有名なヒモ…って、どういう意味なんですか?」



「うちのマンション、独身女性向けなんです。あなたは、マンションを転々としていました…」



冷静に、嘘をついた。



「えっ…。オレって、最低ですね。大してイケメンでもないのに…」



最低なのは、私です。



「イケメンだからこそ、成せる業です。3日前にうちの部屋に現れた時は『ついに来たか』という感じでした」



嘘が、量産される。



「3日前、ですか…」



「あっ、それよりもお腹空きません?何か食べたいものはありませんか」


「なんでも…いいです」


「スーパーに寄って帰りましょうか?お昼は、簡単に済ませて、夜は、お鍋でも…」



「…お世話になります」


座間さんが申し訳なさそうに私を見つめた。



「そんな顔、しないで下さい。契約違反です」



「契約…違反?」



「ヒモにするかわりに、笑顔は絶やさないで下さい…そういう契約をしました」



「そう…でしたか」



笑顔が見たくてついた嘘とも知らずに…。作り笑いでも、イケメンはイケメンやと思った。



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