檻の中
少女たちの悲劇



 扉の前に立ち、深呼吸を一つする。


 こんなに早く決断の時がやって来るなんて……。


 伸ばしかけた手を途中で止め、モニター画面を振り返った。


 ミスターBが後押しするかのように、深い笑みを浮かべながら頷く。


 無断でこの部屋から出るのは、イシザキへの裏切り行為だ。


 勘の鋭い彼のことだから、すぐに気づかれてしまうだろう。


 ミスターBが守ってくれる保証はない。



「……」


 わたしは俯きながら、無言で扉から離れた。



『貴女の選択は忠誠心からではないようですね。そんな柔な心構えでは、いつか身を滅ぼしますよ……クククッ』


 そんな意味深な言葉を残し、ミスターBは煙のように画面から姿を消した。


 後味は悪いものの、後悔はなかった。

 
 あの短いやり取りでも、母に無事であることを伝えることが出来たから……。



 部屋の電気が消えたことにより、再び夜が訪れたことを知る。


 わたしは窮屈な椅子ではなく、床に厚手のタオルを敷き詰めて横になった。


 裕太も寝かせてもらっているだろうか?


 両手を縛られ、鎖に繋がれた哀れな姿が脳裏に蘇る。


 リンに苛められていませんように……。


 何度も寝返りを打ち、眠れない夜を過ごした。 



 ──暗く冷たい海で溺れる夢を見た。


 必死に手足をバタつかせるけど、身体はどんどん沈んでいく。


 海水を飲んでしまい、息が出来なくなった。


 苦しい……!


 目を覚ますと、実際に床が水浸しになっていた。



「……ぷはぁっ! ゲホッ、ゲホッ!」


 わたしは激しくむせながら水を吐き出した。


 何で、こんな……。


 自分の身に何が起きたか理解できず、座り込んだまま呆然とした。


 髪も顔もびしょ濡れで、身体が冷たい。



「あっ……」


 腕を組んで壁に寄りかかるイシザキを認め、思わず声を漏らした。


 傍らにバケツが転がっている。


 これが彼なりの起こし方なのか、それとも──



「……貴様、あのギザ野郎と口を利いたな?」


 イシザキの声は刃のように鋭く、わたしは額に髪を貼りつかせたまま身を縮めた。







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