恋物語。
story.5

モデル




―3月下旬、月曜日の朝。


INT Inter本社へとやって来た。自社ビルであるこの会社は5階まである大きな会社。

私がここに来たのは初めてではない。実は就職活動でこの社も受けていたりしていた。結果は…まぁご覧の通りダメだったんだけど。
でももし私が受かっていたら…朱里やその彼、そして…井上さん、と一緒に仕事をしていたのかもしれない…。とか思うだけでドキマギしてしまう。




いつ見ても大きな会社だなぁ…。




目の前のビルを見上げてそう思う。そして、私は電話をかけた。
社に着いたら電話をするよう、井上さんから言われていたから。




プルプル…ッ




『…はい、もしも し』




ドキ…ッ




「あっ……おはようございます、知沙です。今、着きました」


電話で話すのは初めてじゃないのに…何だか緊張する。



『おはよう。じゃあ…今から下まで迎えに行くから、ちょっと待ってて?』



「はい…」



電話を切って彼の到着を待つ。




な…何だろう…?いつも会う時より緊張した…。てか電話口の声…あんなによかったっけ…?
うぅ~…今から来るっていうのに、さらに緊張しちゃいそうだよ…っ




両手で頬を包み思い悩んでいた、その時―。



「……知沙。」


後ろから聞き覚えある声でそう呼ばれた。



「ぁっ…おはようございます、ぃ……聡さん…」



「ふふ。今一瞬、悩んだでしょ?」


慌てて振り返ると彼は柔らかく笑ってそう言う。



「え…?」



「名前。」



「え!?あ、はい…」




だって会社の前なんだもん…。だけど聡さんは名前で呼んできたし…っ




「まぁいいよ。そんな知沙も可愛くて好きだから。」



「///…」


朝から甘すぎる、この言葉。



「あ…」



「え…?」


何かに気づいたらしい顔をする彼を見つめる。





< 34 / 148 >

この作品をシェア

pagetop