先輩上司と秘密の部屋で
prologue

深く考えることを放棄した杏奈(あんな)は、リビングのソファーの上にセーラー服のまま寝転んでいた。

毎回どんなに必死で弁解しても、誰ひとり信じてくれなくて、挙句の果てに逆上される。

こんなことが続くのは学生時代だけだろうと鷹をくくっていたが、高校卒業までまだ二年以上あることに絶望し、疲れ果ててしまった。


「………あ」


ふいに玄関の方から物音が聞こえて、杏奈は反射的に飛び起きる。

両親は共働きのため、家族の中で自分の次に帰ってくるのは、二つ上の兄である隼人しかいない。

隼人にだけは、どうしても知られたくなかった。

杏奈は部屋に逃げ込もうとしたが、生憎廊下に出ないと階段にはたどり着けないことに気がつき、身動きがとれなくなる。

このままリビングに留まってやり過ごそうと考え直した瞬間、無常にもリビングのドアは開け放たれてしまった。

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