ひつじがいっぴき。
☪ドキドキの電話。



わたしが倒れたその日。

けっきょく、保健の先生に帰宅するようすすめられ、家に帰った。


夕食を食べて、お風呂に入って……。

いつものように過ごすわたしは、だけどいつもと同じ気持ちではいられなかった。


井上先生からもらった電話番号が頭から離れない。


それでもなんとか次の日に提出する宿題なんかをやり終えた時間は夜10時。

何をするでもなく、ベッドの中で布団にくるまって、スマートフォンの画面とにらめっこをする。

その画面には、もちろん井上先生からもらった11桁の数字が打ち込まれているのだけれど……。



『電話してくるといいよ』


井上先生の優しい言葉が――。

『アラタ』さんの声が――。


わたしの頭の中でこだまする。


だけど、その優しさは生徒っていう社交辞令みたいなもので、わたしの悩みを訊いてしまったから言っただけかもしれない。

わたしが電話してしまうと、井上先生は『めんどくさい』って思うかもしれない。


でも、アラタさんに似たあの安らぐしっとりした声を聴きたい。


もう一度あの声を聴いたら、きっとすぐに眠れる気がする……。


ああ、でも迷惑かもっ!

井上先生はいつでもいいって言ってたけど、やっぱり授業とかも受け持ってるし、慣れない学校で苦戦しているかもだし……。


先生は気さくだし友達も多そうだから電話使ってるかもしれないし……。


ああ、どうしよう。

どうしようっ!!


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