淋しいお月様
風邪ひいて優しくされて嬉しい
お兄さんのワゴン車に乗せられ、ほどなくして車は止まった。

「ついたよ。歩ける?」

私は力なく頷く。

人前でおんぶは恥ずかしい。

朦朧とする意識の中でも、そんな感情を覚えた。

それを知ってか知らずか、お兄さんは私の背中を支えるようにして歩いてくれた。

小さな個人病院のドアを開けると、消毒液の安らぐ匂いがした。

「ちょっと、熱あるみたいなんですけど。それから、咳とくしゃみと、喉が」

彼は私に代わって、受付をしてくれる。

「じゃあ、ちょっとお熱測ってみましょうか」

受付の窓口の看護師さんはそういうと、体温計をよこしてきた。

「ほら、座れる?」

お兄さんが体温計を受け取ると、私をレザーの黒い長椅子に座らせてくれた。

私はゆっくりと腰を下ろす。

そして体温計を脇に挟んだ。

「保険証はあるかしら?」

「ああ……はい」

私は財布から保険証を出し、看護師さんに渡した。
< 61 / 302 >

この作品をシェア

pagetop