西山くんが不機嫌な理由
西山くん怒ってます。





私より頭いっこ分大きい山城くんに隠されて、西山くんの姿が視界から外れる。



今、どんな表情をしているのかも分からない。



「…………凪、来て」

「……っ」



消え入るようなその声を、姿こそは見えずともしかと耳で受け取る。



迷うことなく山城くんの後ろから顔を覗かせて、西山くんの様子を窺う。



今のは聞き間違いではないことを確かめるために。




少し長めの前髪に邪魔されてよく見えないけれど、確かに西山くんの瞳は真っ直ぐにこちらに向けられていて。



私の前にいる山城くんには目もくれずに、その綺麗な双眸には私だけが映し出されている。




胸のときめきがキャパオーバーを越しつつ、西山くんの元へと足を進める。



山城くんのことを気に掛けている余裕はなかった。




目の前に西山くんがいる。



よそ見をすることなくその端麗な顔を見詰める。



「にしや、」

「呉羽ちゃん。昨日の告白の返事、聞かせてくれないかなー」

「……えっ」



振り返れば飄々とした顔の山城くんが、西山くんと私を交互に見て薄笑いを浮かべている。



ぞくり、底の見えない意図に背中が粟立つ。



「(さ、作戦は続行中なの!?)」

「(もちろん)」



私の心の声を見事に読み取ってくれたらしく、肯定の意味を込めて大きく頷いてみせた。



「ねえ西山くん、俺君呉羽ちゃんのこと好きなんだ。譲ってくれないかな」



鼓動が波打つ。気になって西山くんを見上げるが、残念ながらその無表情からは何も読み取ることが出来ない。



燃え上がる瞳の奥も、今では氷のように冷たく凍っている。



彼の本心が、見えない。




< 29 / 115 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop