くれなゐの宮
諸刃

宵闇が迫り、赤提灯が灯る頃。

宮の者たちは狐を模した面で顔を隠し、広間へと列を為した。

彼らが足を進める度に装飾の鈴が、シャン、シャン、と厳かに響く。
同時に神秘さも増した。

—―まるで故郷で言う狐の嫁入りだ、とチサトが言っていた。
だがそれが一体何なのか、私にはよく分からない。

けれど、嫁入りという言葉が心に引っかかった。

恐らく、王との面会が何事も無く終わる日々は長くは続かないだろう。

彼が私に向ける執着は愛とは違う。

いずれは妻にと、神を娶ろうと、その背に回した手の平で何人の駒が踊っているのか。

狂気が滲む、あの、笑み。

ぞくりと背筋に悪寒が走り、思わず付き添うチサトの手を強く握ってしまった。

彼が振り返るが…小さく首をふる。


なんでもない。
でもそんなのは、綺麗事。


チサトに王とはもう会いたくないのだ、と打ち明けてしまえば少しは楽になれたのだろうか。


しかし無情にも鈴の音が鳴る度に、確実に広間は近づき、見覚えのある一行がこちらを見る。

広間の中央奥、片側の台座に座る人物。

彼が、王。


私はチサトに手を引かれるまま、王の隣へと腰を下ろした。

そして、チサトの優しい指が離れる。

足音と鈴の音が名残惜しげに遠のく。


ああ、また。

また、長い夜が始まるのか。

< 47 / 119 >

この作品をシェア

pagetop