レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
マクマリー家の日常風景
 その朝、マクマリー男爵家に仕えている執事のヴァレンタイン・パーカーはいつものように食堂で朝食の準備をしていた。

 そろそろ主が食堂に入って来る時間のはずなのだが、いまだに来ないということは……嫌な予感に、胃がぎゅっとなるのを感じた。

 ばたばたと廊下を走る音がしたかと思ったら、主付きであるメイドのマギーが食堂へと飛び込んでくる。

「お嬢様がいらっしゃらないんです!」

 というマギーの言葉に、パーカーは胸に手をあてた。毎度のことなのだが、主の破天荒な行動にはいつまでたっても慣れることができない。

「……またか」

 嘆息した彼は、マギーを連れて庭へと出た。朝食前にこの屋敷のお嬢様、レディ・エリザベスがベッドを抜け出すのは珍しいことではない。珍しいことではないのだけれど、それがレディらしいふるまいかと言われれば話は別だ。

「目立たないように探してきなさい……私はこちらの方を探すから」

 朝っぱらから主を探して回るのは外聞が悪いから、パーカーはそうマギーに命じた。一礼してマギーは走り去った。

 彼は裏口の方面へと広い庭を横切っていく。先日主が脱走した時には、野犬の群れに囲まれていた(そして、そのリーダーを手なずけていた)。
 
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