レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
朝のゴシップ
「おやおや、まあまあ」

 彼女がページをめくるたび、部屋で綺麗に結ってきた蜂蜜色の髪が揺れる。
 気の強そうな緑色の目をぱちぱちとさせてエリザベスは、パーカーが顔をしかめているのにはかまわず新聞紙をめくった。

 爽やかなペパーミントグリーンのワンピースを着て座っているところだけを見れば、愛らしい令嬢なのだけれど。執事としては、そろそろ淑女に成長してほしいところだ。

「レイヤード通りで殺人……恐ろしいわね。死体がばらばらなのですって。最近増えたと思わない? 殺人事件」

 エリザベスは夢中になって、紙面に鼻をつっこんでいた。

『デイリー・ゴシップ』には、殺人や暴行事件など、令嬢だろうが淑女だろうが読むにはふさわしくない記事ばかりが並んでいる。

「ああ、また聖骨が盗まれたのね。聖者とはいっても、死んだ人の骨なんか集めてどうしようというのかしら」

『聖骨』とは、聖女ミゼリアが神の啓示を受けてローズリース教を開いた時、彼女を守護していた十人の守護騎士たちの遺骨のことだ。奇跡を起こす不思議な力があるとされ、信者たちの間では信仰の対象ともなっている。

 教会や聖域に安置されているのが大半だが、癒やしの力を求めて家に置きたがる富裕層も多いため、闇のルートでは高値で取り引きされている。したがって偽物も多い。
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