小春日和
蛍《side香織》
 


私にとって梅雨は、一年で一番嫌な季節だった。



まあ、湿度が高くて、どんよりとした天気が続くこの季節を、好きっていう人の方が少ないのかもしれないけど。



叔母や母と暮らしていた頃は居場所がなくて、雨の中、何時間も外をふらついていると、誰からも必要とされてない自分が惨めで、気分はどんどん滅入っていくばかりで、本当にこの季節が嫌いだった。



なのに、猛さんと結婚して初めて迎えた今年の梅雨は、今までとは全く違っていて、世界が輝いてるみたい。



鬱陶しい雨ですら、庭の紫陽花を鮮やか引き立て、しっとりとした風情を感じさせてくれる。



ちゃんと居場所があって、誰かに必要とされている。それがこんなにも世界を色鮮やかにするなんて、ちっとも知らなかった。



初めはお部屋の花を生けたり、私専用にしてもらった花壇の手入れぐらいしか、する事がなかったんだけど、最近では少しずつだけど佐竹さんから姐としての奥向きの仕事を教わっている。



まだ学生だから、少しずつ仕事を覚えて下さいって言われた時は、自分に務まるんだろうかっていう不安でいっぱいになった。



けど、佐竹さんは凄く丁寧に教えてくれて、それが出来たときの気持ちの高ぶりといったら、本当に経験したことのないもので、夜も眠れないほど興奮したっけ。



 
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