純愛は似合わない
4.過去との狭間
「里沙っち、この唐揚げあげるわ」

社員食堂の片隅で、日替わりランチに付いていた茶色い物体を3つほど、カレーライスを食べている友人の皿にインする。

「早紀、夏バテ? ただでさえ細いのに、大丈夫?」

同期で友人の玉井里沙は、クリっとした瞳をこちらに向けて心配そうにこちらを覗いた。

「ううん。里沙っちを丸々と肥えさせてから笹山に売りつけようかと思って」

笹山基樹も私達の同期で、これが恐ろしくモテる男なのだ。幸か不幸か里沙は、同じシステム課の同じチームで働いている。

「やだ。早紀ってば、本気で心配してるのに」

この顔を見ると弄りたくなるのは、私の悪い癖だ。

確かに2日前の速人との一件以来、私の食欲は低下する一方だった。


あの後すぐ、速人のスマホにやたらと恐縮する松中さんから急ぎの連絡が入り、彼は会社に戻って行った。だから結局、話し合いは途中のまま。

そもそも、あれは話し合いになっていなかった。


やはり食べる気になれず白いご飯を睨んでいると、テーブルの上に小さなふりかけの袋が差し出された。

見上げると、瀬戸課長がいかにも人のよさそうな笑みを湛えて立っている。

「成瀬さん、良かったら使いなよ。食堂のおばさんに2つ貰ったから」


おばさま方も瀬戸課長のベビーフェイスに騙されているらしい。

入社して5年以上の月日が過ぎたけれど明太子ふりかけなんて、お目にかかったことは無い。

「……ありがとうございます。瀬戸課長」

瀬戸課長は男のくせにと言いたくなるほど可愛らしく微笑み、片手を上げて去っていった。

「へぇ、今の人が瀬戸課長かぁ。あんまり噂が入って来ない、うちのところまで聞こえて来てるよ。優しく見えるけど、凄くやり手らしいじゃない?」
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