天然ダイヤとイミテーション・ビューティー ~宝石王子とあたしの秘密~
アメジストの攻防
「あ、の、あたし休憩時間がもう」


 ようやく思考能力が回復してきたあたしは、とりあえずそれだけを答えて立ち上がろうとした。

 いつまでもお口をポカンしたままではいられない。受け付けの仕事が残ってるんだから。


「大丈夫? ゆっくり歩いて」


 そう言って心配してくれる晃さんの肩を借りて歩きながら、あたしの心は混乱していた。

 まだちゃんとした返事を晃さんに返していないのは、自分でも気付いてる。

 でも何て返事すればいいの? 夜の時間に付き合えなんて、そんないかにも意味深な言葉で誘われて。

「はい」とも「いいえ」とも答えられないじゃないの。


 晃さんも晃さんだ! なんでそんな誘い方するの!?

 普通に「食事が終わったら飲みに行こうよ」でいいじゃないの!

 それならあたしも「あ、それいいですねー」って軽く答えられるのに!

 軽い、ごく軽~い、そんな風な誘い方をして、くれ、たら……。


 ……軽く、誘われたなら……

 あたしきっと、断ってたろうな……。


 晃さんはやっぱり、あたしのそんな内面を鋭く見抜いていたんだと思う。

 だから、自分はそんなつもりじゃないからって意思表示してくれたんだ。

 晃さんって本当に誠実な人。


 そんな晃さんと一緒に受け付けに向かうと、同じ受け付け係の他店の子が驚いて近寄って来た。


「どうかしたんですか?」

「彼女、ちょっと転んで怪我しちゃって」

「え!? 大丈夫ですか?」
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