極彩色のクオーレ
おとぎ話「孤独に愛された刺繍屋と心を知りたい修理屋」












静かな森に、一人の刺繍屋がいました。


彼女はいつも薄桃色の目隠しをしているせいで、真っ暗な世界しか知りません。


だからその分、耳を澄まし、触れる感覚を大切にし、注意深く匂いをかぎ、味わってきました。


見えない目の代わりになるくらいに。


そんな彼女を認めてくれる人はたくさんいます、仲良しも、多いわけではないけれど。


それでも彼女は独りぼっちでした。


どうしても、それ以上奥へ踏みこませたくない自分がいるのです。


目が見える友達への気おくれや嫉妬のせいでも、彼らを信頼していないというせいでもありません。


彼らのことは大好きですから。


もしかしたら、気づいていないだけで、全部が理由なのかもしれません。


彼女にも分からない、難しくて厄介な自分。


そうした奇妙なひっかかりが取れず、刺繍屋はいつでも孤独から解放されませんでした。





別の鬱蒼とした森の中で、少年の姿をした修理屋が生まれました。


産まれたばかりの修理屋には考える回路も、離す言葉も、覚える部分も持ってたけれど、明るい『心』はひとつもありませんでした。


暗い感情と、修理屋になる前の暗い記憶。


彼の世界は真っ暗で、そのせいで色が何にもありませんでした。


たくさんの色を目に映してはいたけれど、それを色だと認識することができなかったのです。


黒と白、修理屋の世界はそれだけでした。




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