ぬくもりを感じて
兄の元婚約者
凛花たちが帰宅するとひとりの女性が家にやってきていた。


「こんにちは。お客様ですか・・・。」


「あなたが凛花ちゃんね。
私はあなたのお兄さん・・・瑞歩と婚約していたの。
でも、ご両親を亡くされてから一方的に婚約解消されて、瑞歩はいなくなってしまった。」


「婚約者がいたなんてぜんぜん知らなかった・・・。」


「えっ・・・私たち付き合って3年になるのに、何も知らないの?」



遠藤は智樹に簡単な挨拶だけして、そのまま帰ってしまった。

そして智樹も夕飯のしたくをしながら2人の話をきく程度にしていた。


「何もきいてません。
だいたい、お兄ちゃんと最近はじっくり話したこともなくて。
うちにきたときも、世間話を少しするくらいで、すぐどこかに出かけてしまったんです。」


「そんな・・・。」


「ごめんなさい。私、どうしてお兄ちゃんだけが日本に居るのかも知らなくて。
勉強だったらアメリカででもできると思ってたけど、お兄ちゃんがこっちで研究したいことがあるのかと思ってたから・・・。」



「何もきいてないなら、何を言っても信じてもらえないわね。」


「そんなことないです。私も日本でお兄ちゃんを頼りにやってきたら、もういなくなっていて・・・。
だからお兄ちゃんのお友達だった先生の家にこうして住まわせてもらってます。」


「そうみたいね。
うちにきてもらおうかと思ってたんだけど・・・何もきいてなかったならいいわ。
驚かせてごめんなさい。」


「いえ、訪ねてきていただいてよかったです。
お兄ちゃんのこと何も知らなかったから・・・。」



「じゃあ、これで失礼します。」


「あの、お名前は・・・?」


「何も知らないのでしたら・・・もういいです。帰ります。
さよなら。」



「さよなら・・・。」


女がいなくなってから、凛花は首をかしげていた。


「何か変だなぁ・・・」


「何が変なんだ?」


「だって、お兄ちゃんの彼女だって言いに来るような人なら名前は念を押すくらい私にいうんじゃないかと。
それに、なんかお兄ちゃんに用事があったんじゃなくて、私とお兄ちゃんがどう暮らしていたかを探りにきたみたいだった・・・。」


「そうだな。僕も違和感を感じてた。
瑞歩のことが心配なら、僕が説明して終わってもいいはずだとね。」


「どうして、お兄ちゃんがアメリカ行ったことを話さなかったの?
おかしいと思ったからなの?」


「凛花はやっぱり賢い娘だな。
僕が何も話してないことに気がついていたんだな。」


「ええ・・・。どうして先生はお兄ちゃんが私に言ったことをあの人には言わなかったんだろうって思ってた。」
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