♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~
憧れの人は二重人格者(ヴァンパイア)!?
私立稲月高校の、とある一室。

先程からカタカタと、忙しそうにノートパソコンのキーボードをたたく音が、部屋中に響き渡っている。

その音は、しばらくの間鳴り止む事はなかったが、突然鳴り止んだかと思うと、

「…トマトジュース、準備はできているのかい、乙女座(ヴァルゴ)。

もうすぐ、打ち終わるぞ?」

と、代わりに低めのトーンの声が室内に響き渡った。

「あっ、大変!」

今度は、高い声のトーンが室内に響き渡り、それに続くバタンと扉が閉まる大きな音。

今回の事件は、様々な音を忙しく奏でるこの、奇術同好会の一室から始まった。




「わぁ~っ!うっかりしてた!トマトジュース、トマトジュース!

あれがないと、私がアイツに…




ご、ごめんなさ~い!

きっ、緊急なの!先に買わせて~っ!!」

乙女座と呼ばれたその少女、松永春子は、必死の形相で食堂に駆け込んだ。

それから、自販機に順番待ちをしていた生徒達の列の先頭に割り込み、すかさず百円を投入。

そして春子は、出口のポケットから出てきたトマトジュースを大急ぎでつかんだ。

突然の割り込みに、唖然として立ち尽くしている生徒達の方を振り返る事無く、春子は食堂を後にした。

人にぶつかりそうになりながら、足がもつれてこけそうになりながら、それでもとにかく前へ前へ。

ショートボブにキめた髪も乱れるがままふりふり、自分が先程までいた一室まで春子は全力疾走した。




「はあっ、はあっ。ま、間に合ったかしら。

今日こそは、ヴァンパイア礼士の『はむはむ』から、逃れてやるんだから!

…って、あれ?いない!?




キャッ!」
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