スイートな御曹司と愛されルームシェア
第一章 拾いました

 夢を見た。何の疑問も不安も抱かず、未来は明るいものだと信じていた頃の……。

「今日から僕たちの新生活がスタートするんだね」

 五階建ての茶色いビルの前で、二階に掲げられた真新しい看板を見上げながら、佐々木(ささき)恭平(きょうへい)が嬉しそうな笑顔で言った。

「少人数制のきめ細かい指導・創智学院(そうちがくいん)」

 恭平と並んで見上げながら、岡崎(おかざき)咲良(さくら)は看板の文字を一語一語噛みしめるように読み上げた。三年間勤めた大手予備校を一緒に退職し、恭平が退職金や家族からの借金で三分の二を、咲良が貯蓄や退職金で三分の一を出資した学習塾。講師も雇い、受講生もそれなりに集まった。

「咲良さん、これからもよろしく」

 恭平が咲良を見て手を差し出した。その大きな手を咲良はしっかりと握った。
 今の恭平と咲良の関係は、共同出資経営者というビジネス・パートナーだ。

(いつか人生のパートナーにもなれますように……)

 そんなことを思いながら、咲良は銀縁メガネの奥の、希望に輝く恭平の知性的な目を見つめた……。

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