大好きな君へ。
木々はざわめいて
 大学へ行こうと駐輪場へ向う。
土曜日だけど、午後から部活があるんだ。
所属してるのは硬式テニス部だ。ソフトテニス部もあるけど、とある事情があって封印してしまっていたからだ。




 今、小型の中では一番大きいスクーターに乗っている。


(そう言えばこのバイクも二人で選んだんだったな。キミを乗せて色々な場所へ行ったな……)

又思い出していた。
これにも沢山の思い出があるからだ。




 通っている大学はかなり勾配がある坂の途中にある。
だから毎日、エンジンには負担を掛けている。
それは解っているが、自転車では通えるはずがない。
そう思っていた。




 僕は以前、ゼロ半と呼ばれている原付自転車で通っていた。

高校には内緒で、在学中に自動二輪の小型免許は取得した。
だから卒業時点で購入したのだ。

本当はもう少し大きいバイクにしたかったけど、高額だったから結局それになったんだ。

だけどそれは、エンストやら何やらでトラブル続きだったんだ。

それに二人乗りが出来ないから……
思い切って彼女のためにこれに乗り換えたんだ。




 僕が住んでいるのはほぼ駅前だ。大学はその一つ先の駅。
其処から無料のスクールバスが出ている。

でも僕は雨の日以外は殆ど乗らない。


何となく面倒なんだ。だから自由のきくバイク通学をしてしまうのだった。


僕はある事情があって、身を隠すように生活をしている。

だから隣同士の交流のあまりない彼処が性に合っているのかも知れない。




 (だけど、本当にこの坂はきついよな。あの原付の故障だって、きっとこの坂が原因になったに違いないな)

呑気にそんなことを考えながら何時もの道を走っていた。


この坂の途中に大学はある。

だから僕はひそかに此処を、ゼロ半のエンジン破りの坂と喩えていたのだった。




 その大学の下には動物園があって、何時も大勢の子供達で賑わっていた。


(今日もいっぱいだな)

横断歩道で手を挙げて歩いてくる子供達を僕は懐かしく見ていたのだ。


……ドキン。


(ん!?)


……ドキン。


(えっ、今の何だ?)


……ドキン、ドキン。


(えっ、又……)

僕の前を、保育園児の手を引いて若い保育士が通っていた。

原因はその人だった。


僕の心臓が激しく波打った。




(何なんだ? 何でこんなことになるんだ)

僕は……
ただ呆然とその人を見つめていた。




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