大好きな君へ。
結夏の秘密
 バイクを休ませたのが良かったのかは解らないが、大学を出る時にはしっかりとセルが回ってくれてエンジンが快調に鳴り響いた。


「やれやれだな」

そう言いながらも、ホッとした僕は何時になくルンルン気分だった。


前に乗っていたゼロ半のようにならないかと気が気でならなかったのだ。


以前、大学下の動物園入り口近くでエンストしたことがあったからだ。

そう、丁度バイクを転倒させた辺りだったのだ。
だから気が気でならなかったのだ。


あの坂の勾配は半端じゃないんだ。

だから、孔明の優しさが嬉しくてたまらなかったんだ。




 孔明とは保育園時代からの腐れ縁だ。
悪い意味ではない。
寧ろ、離れがたい存在だって意味だ。


ただ……
彼女のことだけは話せなかった。
彼女も……
いや、三人は何時も一緒だった。
幼なじみが恋人だ、なんて恥ずかしくて言えなかったんだ。




 『良かったら、夜家で焼肉やらない?』

大学の門まで押し上った僕は孔明にそう言った。
お礼のつもりだった。


『良いのか? 俺は大飯食らいだぞ』

孔明は嬉しそうに言っていた。


『家に帰ったら電話するね』


『ああ、お腹空かせて待っているよ』
孔明はそう言いながら、ポンポンとお腹を叩いた。




 僕の住むマンションは駅からほど近い。
その上、隣が大型スーパーなのだ。


バブル期に建てられ少し老朽化したが、その頃に比べたら値段は五分の一位に以下なっているそうだ。


オーナーは叔父だ。

何でも隣のスーパーの宝くじ売り場で購入したのが大当たりして、格安物件を手に入れ借しているんだ。

でも僕は身内だって言うことで、特別に安く貸してもらっている訳だ。


小さい頃住んでいたのはオンボロアパートだった。
其処に比べたら雲泥の差だ。
だから僕は叔父に何時も感謝しているのだ。




 間取りはオンボロアパートと大差はない。
玄関脇にはお湯を沸かす以外殆ど使用していないキッチンがある。
それが少しだけ広いくらいだ。
食事は洋間にあるソファーベッドの脇のローテーブルで済ませていた。


一応和室もあるけど、叔父が気紛れだから何があるか判らないんだ。
突然やって来て泊まっていくこともあるかも知れない。
そんな時のために空けてあるんだ。
家賃を殆ど払っていないから強気に出られない。
それが僕の弱点だった。




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