疑惑のグロス
10:即席のシナリオ

悔しい。

拭いても拭いても、涙は止まってくれない。

乙女の代名詞みたいなこんなもの、私には似合わないのに。


わかっているんだ。

食事も見た目がおいしそうな物の方がいいし、蝶だって綺麗な花の方が心地よいに決まっている。

擦り傷ばかり作っていた小学生の頃、『オトコオンナ』とからかわれた時から、私はなるべく女であることを忘れようとしていた。


数少ない恋をした時間も、誰にも話すことなく一人、心で思い続けているだけだった。

誰かに言ったら、笑われる――。

そう思ったら、自分の気持ちを心の外に開放してあげることなんてできなかった。


あまり好きな人ができなかったのも、それも原因の一つかもしれない。

高望みしすぎだと友達から言われて否定できないほど、確かにイケメンのさわやかな人が好きって公言していた。

でも、もしも普通の男の子……それこそ、幼なじみのゆたとなんか恋に落ちたりしようものなら。

「オトコオンナはやっぱり妥協するしかないんだ」って言われてしまいそうで、怖かった。

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