黒毛のアンと僕。
大河原さんと僕。







今日も、大河原さんは、長い髪をなびかせて、長い脚を最大限に活かして、すたすたとキャンパスを横切っていく。





学食を出たところで大河原さんを目撃して、僕は少しテンションが上がったけど、いつものように目で追うことしかできない。





今日の大河原さんは、『有象無象』(うぞうむぞう)という豪快な筆文字がプリントされた、ビビッドな赤のTシャツを着ていた。



(ちなみに、二日前は青地に『絶好調』、先週の水曜日は黄色に『本日ハ晴天ナリ』の文字だった。)




その上に、いつもの釣り用ベスト。



堤防あたりで釣竿を持ったおじさんたちがよく着ている、ポケットがたくさんついたメッシュ生地のやつだ。




大河原さんは鞄を持たない主義らしく、必要なものは全てそのベストのポケットにしまわれている。






ぼろぼろの文庫本が2、3冊。




講義で使うらしい教科書。




あとは、小さく折り畳んだルーズリーフが数枚。


たぶんノートはポケットに入らないから。




数本のペンも、もちろんポケットに入れてある。





そして、いつものように、すらりとした脚によく似合うぴったりとしたジーンズを履き、白いスニーカーで、すたすたと大股で歩く。






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