詐欺師の恋
始まりは痛み





「中堀、さん、…ねぇ…来ていただいて、申し訳ないんだけど、、採用はなかったことにしてくれる?」




肥え太った頭の薄い男はそう言って、手にしていた履歴書を机の上に無造作に投げた。




「…わかりました。」




向かいのソファに浅く腰掛けていた少年は、ゆっくりとした動作でそれを拾い、鞄の中に丁寧に仕舞う。




「失礼します。」



自分に背を向ける男に一礼し、部屋を出た。



「ここも…か」



太陽の陽射しから顔を背け、自然と溜め息が零れる。



小さな事務所だったが、雇い主は好感を持てる人柄で、社員も少ないけれど、温かみがあった。



それがものの三日で一変した。



理由は、訊かなくても、予想はついている。


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