恋をしようよ、愛し合おうぜ!
24
その日のうちに、両親は九州へ、私は東京へ帰るため、こだまに乗った。
両親とはこだまの中でたくさんおしゃべりをして、名古屋で別れた。
そして東京行きののぞみに乗り換える前に、アパートの私の部屋の管理をしてくれていたクリスティーナに電話をした。

「・・・ハイ、クリスティーナ。今日そっちに帰る・・・・・・今名古屋・・・・・・・・・うん。ありがとう。じゃ、後でね」

あまり食欲はなかったけど、両親が天むすを2コ買ってくれたので、ありがたくそれを車内で食べることにした。

今回はお父さんとお母さんにも多大な迷惑をかけちゃった・・・。
でも、二人が私の味方になって後押ししてくれたおかげで、やっとあの人と離婚することができた。

お父さんとお母さんだけじゃない。
私が不在の間、クリスティーナとヒロミちゃんと幸太くんは、郵便物のチェックや部屋の掃除をしてくれたし、野田さんだって・・・。

天むすを食べ終えた私は、スマホを出すと、野田さんへメールを送った。

『なつきです。今日東京へ戻ります。』まで打った私の手が、しばらく止まった。

あっちにいた間、野田さんには一度も連絡を取っていない。
夫、じゃない、元夫になかなか離婚に応じてもらえなくて、心がくじけそうになったときや、いよいよ逃亡資金を使わきゃいけないのかと、金銭的・精神的に追い詰められたとき、「大丈夫だ」という野田さんの低音ボイスが聞きたくて、何度もスマホに手が伸びた。

でも甘えちゃいけない。
いつ終わる分からないもめ事に、野田さんを巻き込んじゃいけない。
このままフェイドアウトしたほうがいい。
そうしたら野田さんは、他に好きな人を見つけることができる。
と思っては、スマホをギュッと握りしめて・・・。
結局「行くなよ」という留守電メッセージの低音ボイスを何度も聞いては、自分を励ましていた。

・・・野田さん。

野田さんのことを思っただけで、両目に涙がじわっと浮かんでしまった。
慌ててハンカチを目に当てると、『明日会いましょう』と打って、送信した。



この2カ月近くの間、野田さんも私に会いたいと思ってくれていたのかな。
それとも、もう私のこと、忘れちゃったかも・・・。

でも、野田さんには会わなきゃいけない。
逃亡資金としてもらっていた50万のうち、5万使ってしまった。
だけど残りの45万だけでも、野田さんにはすぐ返しておきたいし。

本当は今日にでも会いたいけど、明日にしたのは、今日はもう夜遅いという単純な理由だ。
明日は月曜日。
野田さんはお仕事のはずだし。

・・・疲れた。

シートに身をゆだねて両目をつぶっていても、私の頭の中は、野田さんで占められていた。




だから、ホームから出てトボトボとタクシー乗り場へ歩いているとき、私の名前を呼ぶ野田さんの低音ボイスが聞こえたんだと思った。

私・・・幻聴が聞こえるほど、野田さんのことを考えてるの?
と思ったら・・・数メートル先に野田さんの姿が見えた。

「・・・のださ、ん」

私は「野田さんっ!」と何度も呼びながら、野田さんがいる方へ小走りに駆けて行った。
そこにいる野田さんは、確かに本物で、その証拠に、私に向かって野田さんも私の方へ駆けてきてくれたので、私たちの距離はあっという間に縮まった。

「よお、なっちゃん」
「ぁ・・・ど、して・・・」
「親切なクリスティーナが、“ナツが帰ってくる。今名古屋だって”って教えてくれた。それでのぞみの時間調べてここで張ってた。おまえもメールくれたしな」
「そぅ・・・」と私はつぶやくと、ボストンバッグを手から放した。

地面にバッグが落ちたボンという音が、かすかに聞こえたけど、私は野田さんを見たまま。
そして野田さんも、私を見ている。

私は野田さんに両手を伸ばした。
手が震えてるのは、感激してる証拠かな、なんて思いながら、その手を野田さんのガッシリした肩に置いて・・・首の後ろに移動させた。

「のださ・・・のださん。野田さんうぅ、やっ、やと・・・せーせーどぅどぅ、と、ううぅ、野田さんに抱き・・・つけた、ようぅ。わぁん!」
「会いたかったぜ、なっちゃん」

人目をはばからず、声を出して泣く私を、野田さんはしっかり抱きとめてくれている。
そして私をあやすように、優しく髪をなでながら、「明日まで待てねえよ」と言った。



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