神様修行はじめます! 其の四
たったふたりの生き残り

悲しくて悲しくて。


あたしはお岩さんにすがり付き、グスグスと泣き続ける。


お岩さんは慰めるように、あたしの髪を優しく撫でてくれた。



牛車の中は会話も無く、ガラガラと響く車輪の音以外、何もない。


でもあたしの耳には、お岩さんの鼓動の音が穏やかに聞こえていた。



そうして泣き続けているうちに、やがて少しは気分も落ち着いてきて。


あたしは手で涙を拭きながら、身を起こす。


そしてお岩さんに、小さな声で感謝の気持ちを伝えた。


「ありがとう、お岩さん」



お岩さんは微笑みながら、首をゆっくり左右に振る。


さっきまで聞いていた心臓の音みたいに、その表情は優しくて穏やかだった。



「ほんとにゴメンね。迷惑かけちゃって」


「迷惑なんて、とんでもないですわ」


「しばらく、権田原にご厄介になります。よろしくお願いします」



ペコリと頭を下げるあたしに、お岩さんはコロコロと明るく笑って言った。



「ちっとも厄介じゃありませんわ。実を言うと、ありがたいくらいなんですのよ?」


「え? なんで?」


「これでしばらく、わたくしの婿選びから解放されそうですもの」



あぁ・・・そういえば。


お岩さんも結婚相手をずっと探しているんだったっけ。


なかなか良い相手が見つからないってボヤいていたけど、まだ決まってないのか。



「さすがにそろそろ、決めなければならないのですけれど」


「お岩さんが好きになれそうな人って、いないの?」


「・・・・・・・・・・・・」



お岩さんは一瞬の間のあと、短く「ええ」とだけ答えた。

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