♀乙女座と吸血奇術師♂~ヴァルゴトマジカルヴァンパイア~
驚愕の真実
油絵の具とシンナーの混ざった、めまいが起こりそうな臭い。

部員達のおしゃべり一つこそ無い空間。

だが口の代わりに、キャンバスに叩きつけられ、洗浄され、様々な色のねっとりとした固体を身にまとわされ、そしてまたキャンバスに叩きつけられと、その無限のローテーションにきりきり舞いになっている筆達の悲鳴と発散熱が、この空間を騒がしくしている。

無機質な喧騒、美術部。

春子と礼士は、吸血奇術師との決戦の日の放課後、美術部の部活が行われているこの美術室で、雪野恵の後ろについて、雪野恵の右隣に座って絵画作品を制作する、小谷静の共犯者、京子の動向に注意を払っていた。

-私達が美術室に見学しに来ている事によって、京子さんが、恵さんの隙を付いてマジックナイフをすり替える事は、とりあえず出来ない。

ここまでは、OKなんだけれども…-

春子は、持参してきた、ヴァンパイア礼士からの挑戦状を、制服のポケットから取り出した。

-小谷静は、復讐したい相手、雪野恵の描いている絵画作品、『金色(こんじき)の天使』の破滅を望んでいる。

だが、小谷静は、美術部に所属しない部外者である為、その作品には近づけない。

しかし、そんな小谷静に、幸運にもわざわざ共犯者を買って出てくれるものが現れた。しかもその人物は、美術部員…

…ある道具が用いられて、二人の実行者達の思いが交錯する中、『金色の天使』は無惨な姿へと変えられてしまう事になる。-

「う~ん、よくよく見れば、やはりそうね。」

-『ある道具が用いられて』…

マジックナイフって、限定して書いてない事からも、この時点ではヴァンパイア礼士が、今回の犯行で使われる道具が、マジックナイフだと知らなかった事が分かる。

でも、使用されるのは、マジックナイフ?-

「は、ハルちゃん!あれ!」

「えっ!?」

礼士に不意に呼ばれて、春子は驚いたが、それを上回る様な驚きの展開が、目の前で行われていた。

「な、何て大胆不敵!」
< 29 / 52 >

この作品をシェア

pagetop