キミのその嘘つきな、
キミのその嘘つきな、
 まだ「おめでとう」を言われていない。

 その無表情で、いつもキツく閉じられた唇は、キミの悪い癖だと思う。

「じゃーん。たった今から『長岩 桔梗』から『日高 桔梗』になりました。はい、拍手!」

自動ドアをが開くと同時に、私は両手を上に掲げてそう言いながら中へ入る。


もちろん閉店間際でお客が居ないかをちゃんと確認してからの決行。
老舗和菓子店『春月堂』は年齢層も高く上品なお客が多いから、私みたいな客が現れたら腰を抜かしてしまうかもしれない。

だから閉店間際。――幹太が店番をしてる時間だからこそ出来る。


「……シャッター閉めるから出てけ」
「なっ! お客に失礼だぞ。どら焼き二つ!」

幹太に2本の指を突きだして、鼻息荒く笑ってやった。
幹太は不機嫌そうな顔で私を見ると、溜め息を吐き、どら焼きをレジに打ち出す。

(せっかく私が『おめでとう』を言えるチャンスを作ったのに)

婚約すると幹太に報告してから結婚した今日まで、私は幹太からお祝いの言葉を聞いていない。

幼馴染みで、私と彼と幹太は仲良しだと思っていたから、――喜んでくれると思ってたのに。


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